(暗い舞台、波の音とともに、静かにナレーションが始まる…) むかし、むかし。 海沿いに大きく賑やかな街がありました。 その街には白で統一された大きな城が建っていて この国の王子はとても美しいことで有名でした。 今日は王子の誕生日。 ○○歳の記念なのだから、と王様や女王様は 王子の誕生日パーティーを船で行うことにしました。 パーティーの行われる船は王子にふさわしいように、と 豪華な飾りや美しく光るシャンデリア、沢山の豪華な食事が用意されました。 その大きい船には美しく着飾った人たちが楽しそうにダンスをしています。 王子も最初は楽しくパーティーに参加していたのですが 次から次へと若い娘たちにダンスを申し込まれ ずっと相手をしていた王子は疲れてしまい途中でパーティーを抜け バルコニーで休むことにしました。 (スポットライトが王子のみに当たり、他は暗い ぼ〜っと、水面を眺めている…) 王子「……?何だろう、今、キラキラ何かが光ったぞ?」 (海を覗く様に目を凝らし辺りを見つめ…見つけられず、 次第に見つめるのをやめ、のんびり、水面を見つめる) (少し離れたところに人魚姫登場。王子のスポットは 少し弱まり、人魚姫に強くスポットライトが当たる) 人魚姫「今日で15歳、やっと海の上まで上がって、外の世界を見る事が出来たわ…」 (キラキラと衣装をきらめかせながら、その場でくるっと回る) 人魚姫「まぁ、大きなお船…あら?」 (王子を見つけ、ぽ〜っと見つめ) 人魚姫「素敵な王子様…!どうしましょう…こんなに胸がときめいてしまうなんて!」 (少しずつ、王子の方へ泳ぐような仕草で近付いて行き) (海の荒れるようなBGM、王子のスポットライトも強く) 王子「ど、如何したんだ!!急に!!うぅっ!うわぁ!!」 (王子、その場でバランスを崩したように倒れこむ) (同時にドボ〜ンと大きな音) (もがく王子…次第に動かなくなり…) 人魚姫「っ!!王子様!!」 (大慌てで王子に駆け寄る人魚姫、その声にうっすら目を開け) 王子「…あ、美少女…(ガクッ)」 (暗転) (次第に照明は明るくなり、場面は浜辺) (さざ波の音) (王子の身体をしっかり抱える人魚姫) 人魚姫「王子様、しっかりして。王子様!」 (人魚姫、必死に王子を起こそうと試みる 往復ビンタしてみたり、鼻をつまんでみたり… しかし、全く起きない王子) (ふと、辺りを見回して) 人魚姫「もう、…夜も明けてしまったわ…」 (舞台上手より、娘登場。人魚姫、姿を見つけ) 人魚姫「あっ、いけない」 (人魚姫、王子を思わず投げ出し、岩陰に隠れる) (娘、王子を見つけ、駆け寄る) 娘「だ、大丈夫ですかっ!?あぁ、何方か!?」 (娘が声をかけると目を覚ます王子) 王子「あ、ありがとう。あなたがわたしを助けてくれたのですね」 (王子、娘の手を握り、キラキラとした瞳で見つめる) (影からその様子を伺っている人魚姫) 人魚姫「…私も人間になれば、王子様にまた会えるかもしれないわ!」 (暗転) (照明が点く、舞台中央に王子、その少し後ろに娘。 沢山の衣装に埋もれながら一生懸命選んでいる様子) 王子「…あぁ、毎日幸せだな。 こうして、命を救ってくれた娘と一緒にいられて… しかし、…時々夢に見る…海に堕ちた時、僕を抱きかかえ 必死に呼びかける美少女… あれは本当に夢だったのだろうか??」 (ウロウロしながら苦悩の表情の王子、ぶつぶつとあの時の美少女…とつぶやく) 王子「あ〜、だめだ。やっぱり思い出せない」 娘「何が思い出せないのですか?」 (突然の娘の声に大げさにびっくりしたリアクションを取る王子) 王子「い、いやいやいやいやいやっ;何でもないよ… 最近、寝付けなくてね」 娘「あら?でしたら、一緒に寝て差し上げますのに」 王子「えぇ!?」 娘「うふふ」 (娘の言葉に王子激しく困惑…娘は楽しそうに王子を見つめ微笑む) 王子「そ、それより、衣装は決まったのかな? もう少ししたら、僕達の結婚式なのだよ」 (娘、沢山の衣装を手に持ち、困ったような嬉しいような表情で) 娘「多すぎて迷ってしまいますわ」 (扉をノックする音がなり、メイド登場) メイド「失礼します」 (手には衣装の入った箱が6つ) メイド「新しい衣装が届きましたが……どちらに置きましょうか?」 娘「王子様、いくらなんでも、量が多すぎですわ」 (呆れ顔の娘、そっぽをむき照れた表情の王子) 王子「そ、そうかな?」 メイド「はぁ。とりあえず、最初に届いた衣装は片付けますが、よろしいですか?」 (メイドと娘で衣装をどうするのかと、話し合う 指示をしたり、衣装をアレコレ持ったり) 娘「そうね……お願いするわ」 メイド「かしこまりました」 (メイド、有る程度の衣装を持ち、一礼して舞台からそでへはける) 娘「さぁ、また試着ですわ」 (娘もまた残りの衣装を持ち、メイドとは逆方向へはけていく) (暗転) (照明が点き…お城の前でウロウロしている人魚姫。 そこへ、メイド登場) メイド「あら?…、あなた、ひょっとして数日前海岸にいた子かしら?」 (困惑する人魚姫) メイド「実は、…私、あなたが岩場に隠れる所を…みたんです。 本当は、王子様を助けたのはあなたなんじゃないのかしら?」 (泣きすがるようにメイドに抱きつく人魚姫…それとともに照明は薄暗くなり、 椅子などが運び込まれ、メイドの部屋に… 準備が出来次第、照明が点く) メイド「なるほどね、話はわかったわ…ただ、あなたではなく、 助けたのは他の娘だと、王子様が信じきってしまっていて、もうすぐ結婚式なのよ」 人魚姫「そんな!!折角、大金つぎ込んで海の魔女から、人間になる薬を貰ってきたというのに!」 (落ち込み黙り込む人魚姫、しかし、直ぐに何か決心したように立ち上がり) 人魚姫「こうなったら、王子様を奪い返すわ!!」 メイド「(小声)…元々、あなたのものじゃないけれど…面白そうね…」 メイド「そうですよ!!これは真実を伝えるべきですわ!」 (メイド、人魚姫、手を取り合い、気合を入れる… そこへ、執事登場) 執事「そうは、…参りませんよ!!」 メイド「立ち聞きとは、趣味が悪いですね」 執事「もう、婚礼の準備も整い、各国への通達も終わっております。 既にお祝いの贈り物も届いていたり…いまさら別の女性などと、 覆す事はできません!」 (にらみ合うメイドと執事) メイド「この男は、私が押さえます、あなたは、あの部屋へ!」 (メイドは王子の部屋の方向を指し、何故か剣を抜く) 執事「衛兵!であえであえ〜!!」 (舞台上に倒して置いておいた張りぼての衛兵を一つ一つ立ち上げる執事、 …立ち上げてはメイドに倒され…次第に暗転) (ゆっくり照明が点き…王子の部屋 飛び込むように舞台に登場する人魚姫) 王子「き、君は誰だ!」 人魚姫「え、えっと……」 (しどろもどろになる人魚姫…王子は、彼女に近付き) 王子「あれ?…君、どこかで…」 (衣装を手にし、娘登場) 娘「王子様♪この衣装はいかがですか?……あら?」 (人魚姫と娘、目が合い、お互い指差しつつ) 人魚姫・娘「あ〜〜〜〜〜!!」 娘「王子様!!」 王子「は、はい!?」 (驚き、娘に向き直る王子) 娘「私を差し置いて、また女の子を連れ込んだんですね!」 人魚姫「え!?…また???また??またって事は、 以前にも、こういうことがあったということ??」 (娘は王子にズカズカと近づいていき、机にバン!と手を付いて王子に詰め寄る。 もう人魚姫の事は綺麗さっぱり忘れているように。) 娘「さぁ!王子様!説明してくださいませんか!!」 王子「え、えっと……」 (人魚姫、チャンス!とばかりに二人の間に割り込み舞台中央へ) 人魚姫「私が海で溺れかけた王子様を助けたのよ!!」 (びっくりする王子と娘…しかし、王子は何か思い出すいたように 人魚姫に近付き) 王子「ま、まさか!?あの時の!?いや、しかし、あれは夢じゃ……」 人魚姫「夢ではありませんわ。実際に私はここに居ます。 海に住む魔女に頼んで、人間にしてもらったのです。」 (人魚姫、アドリブで王子に、海で助けた事などを説明する。 一人、混乱状態の娘…) 娘「何?何??一体どういうこと??」 (激しく戦いながら、メイドと執事登場…メイド優勢で、 執事は、息切れしつつ) メイド「王子様!」 王子「は、はい!?」 メイド「私、…見ちゃったんです、あの少女が王子様を助けた所を… あなたの恩人の娘は…後から来て、ただ、人を呼んだだけなんです…」 (市原○子の家政婦は見た風に台詞を言うメイド) メイド「とはいえ、倒れている王子様を介抱したのは、こちらの娘さんですし…選ぶのは…王子様次第…ですわ」 人魚姫・娘「さぁ!王子様!!どちらを選ぶのか、ここではっきりしてください!!!」 (王子にジリジリと詰め寄る娘と人魚姫) (剣を鞘に収めるメイド、くたっとその場に座り込む執事) 「さぁ、私ですよね!?」 「いいえ!私よ!!」 「私です!!」 「私よ!!」 「私ですってば!」 「私ったら私です!!」 (「私、私」と言い合う娘と人魚姫…頭を抱える王子) 執事「…女は怖いですな」 (王子すくッと立ち上がる、吃驚してその場に座り込む娘と人魚姫) 王子「ぼ、僕は!!」 人魚姫・娘「きゃっ」 王子「あなたを選ぶ!!」 メイド「ええええええ!!??」 (王子はメイドの腕を掴み、ダッシュ…上手へ退場) 人魚姫・娘「ちょ、王子様!!」 (「王子様!お待ちなさい!!」、「そうよ!ずるいわ!」等言いながら、二人を追いかけ退場…) (執事以外誰もいなくなった舞台、スポットライトが執事を照らす へたり込んでいた執事も立ち上がり、ぽんぽんと着衣の乱れを直し、客席に向き直ると。) 執事「…このお話は、ここまで。 王子様は一体、誰を選んだのでしょうか…。 あなただったら、誰を選びますか?? また次回があるとしたら、それは奇妙な世界への入り口なのかもしれません。 ほら、あなたのうしろにも…。」 (世にも奇妙な物語のBGMが流れ、ゆっくりスポットライトの明かりも落ちる。…舞台は暗くなり、終劇) タイトル:新説:人魚姫 CAST 王子:瀬納秋 人魚姫:桜沢蓮希 娘:一宮灰 メイド:天馬龍 執事(冒頭ナレーション):綺咲小鳥 STAFF 脚本:天馬龍、一宮灰 衣装:瀬納秋 演出:桜沢蓮希、綺咲小鳥